わたしは無間地獄の噴煙を那須岳の象徴だと思っている。間断なく吹き上げる水蒸気の噴射音は、蒸気機関車を思い起こさせる。
厳冬期の那須岳に吹く風は冷たく強い。氷のように冷たい風は、全身に突き刺さり痛い。 水蒸気の噴煙口に、凍える身体を近付けると蒸し風呂のような、フワァッとした生暖かい感触が衣服を通
って伝わってくる。 身体と気持ちが少し溶けて、ほぐれる。 強い風は一瞬とて、噴煙を定形に停めることはない。 無間地獄の端の岩間をチョロチョロとぬるま湯が流れている。地熱のエネルギーを含んだ流れは、凍らずに筋になっている。
氷塊と凍てついた岩の「静」と、流れる水と噴煙の「動」が無限に紋様を織りなす。冬の無間地獄の被写 体としての魅力である。 流れの中に三脚を立てる。時折、姥ヶ平の雪面をわたってくる冷たい強い風が、ぬ
るま湯をすくい上げ、まき散らして滴に変身させる。 空中に散った滴は、カラカラとぶつかり合う音をたてて三脚や衣服に吸い付く。 衣服に吸着した水滴は、無数の氷のビー玉に変身し、キラキラと日射しを反射させている。
無間地獄では、自然のマジックショーが無限に繰り広げられている。
信太 一高 |