遊行柳と田一枚だけ植えられていた苗は、春の風に揺れている。
 
 
<田一枚植えて立ち去る 柳かな>。松尾芭蕉が「奥 の細道」の旅で那須・芦 野の遊行柳を詠んだ句で ある。
芭蕉が那須で詠んだ俳 句の中で、わたしがいち ばん好きな句である。  
謡曲「遊行柳」では西行法師も柳の陰で歌を詠んでいる。西行ファンの芭蕉は、胸をときめかせて柳を訪れた。
遊行柳の周辺では、ちょうど早乙女たちが田植えをしている。
柳の新緑と植えたばかりの稲の苗の緑が、芭蕉の目に、さぞやさしく映ったことであろう。
萌黄色の遊行柳を見るために東北本線の豊原駅から歩キメデス。萌え木が放つグリーンシャワーを浴びながら、雑木林の田舎道を歩む。
新緑に染まった雑木林の一端の、濃緑の陰に岩群れがある。岩窪から清水が出ている。恵みの岩清水を賜りで喉を潤す。
寄居、高瀬、板屋、峯岸の集落を通って芦野の遊行柳に着く。
なぜか、水を張った遊行柳の下の田は、一枚だけ植えられていた。
ずいぶん風流な田植えをするものである。
芦野の里には風雅な心が息づいている?
信太 一高